「7.秋には倍額増資
『また現在、百四、五十億円の借入金がありますし、過小資本を
是正する必要はあると思っています。
それに再評価積立金は株主のものですから、
株主におかえしするのが当然でしょう』
『その時期をいつとお考えになっていらっしゃいますか?』
『この三月期は、一割無償、一割現金配当をもう一回やります。
増資はその次です』
『九月末割当ということですか?』
『今年じゅうにその問題は起こりますから、
来期中にだいたいの計画が立つという程度はお書きになって結構です』
『外資会社ですから、持株比率の問題もあるし、
その場合、公募をやるようなことは……』
『公募はやりません』
『そのほうがいいですね。
株価が高くなったのは自分らの努力のせいだと考え、
株主の上前をはねる公募をやりたがりますが、
公募とはその額面の株を発行したようなものです。
額面ワレに責任を持たない経営者が出てきたのにはびっくりしています』
これは私だけでなく、おそらく投資家の偽らぬ心情だろうと思うが、
株主の利益代表が外国資本である会社は安心なものである。
『六月からアルミ地金の自由化が実現するようですが、
どういう影響がありますか』
『同時に関税が従来の一〇%から一五%にひきあげられますから、
だいたい、市場価格とバランスします。
昨年は供給不足で一万トンほど輸入がありましたが、
今年はだいたい、国内需要を国産でまかなって行ける見通しです』
『アルミの新製法はどうなっていますか?』
『私どもでは昭和三十八年年度からの設備は新製法でやる予定です。
今年と来年は従来の方法でやるべく、目下蒲原の工場建設をつづけています。
第四工場が三月八日に通電し、これが一万二千トンの増産、
一万六千トンの第五工場はこの四月に起工し、来年の四月には完成予定、
そうすると年間六万五千トンだったのが九万トンになります』
新製法はボーキサイトから直接アルミをつくる方法で、
原料輸送の関係上、あるいは清水工場内に新工場を
建設することになるかもしれない。
また電力が不足気味になってきたので、清水工場の傍に中部電力と共同出資し、
十五万キロの火力発電所を建設する。
どれもこれも金のかかることばかりで、
毎年、五十億円程度の設備投資がつづく見込みだという。
『増産をやっても生産が過剰になるおそれはないですか』
『建築材料、たとえばアルミのサッシュ(窓枠)や高層建築の外装、
電線、車輛の素材として、今後もますます需要が増大すると思います。
むろん、開拓をする必要はあるでしょうが……』
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8.ふえるアルミ合金の需要
これだけ聞けば、だいたい、私の想像と大きなズレはないが、
新潟工場だけでなく、清水、蒲原の両工場も見に行ってくれと言われた。
蒲原工場は新潟工場と同じ電解工場で、スケールが倍あることを除けば、
だいたいよく似ている。
一番目立つことは、広い工場の中に、ほとんど人が見えないことで、
これは清水工場も同じである。
『むかしは面積が広く工員が多いことを自慢にすればよかったですが、
今はなるべく人の少ないのがいい工場だという時代ですからね』
新工場が出来あがっても従来の人員をふりあてて、
行員は増大しない計画だそうである。
もう一つ私にとって新知識だったのは、アルミ合金の需要が
非常に盛んになってきたことである。
エスカレーターや紡績機械やカメラのボディがアルミでできているのは
目で見てもよくわかるが、車輛部門への進出もめざましく、
たとえば、本田技研だけでも月に千トンからのアルミを使うと聞いて驚いた。
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9.赤く染まった工場
清水工場はシンガポール、ボルネオから運んできたボーキサイトから
アルミナをつくる化学工場である。
一万トン級の貨物船をつける岸壁のそばには
真っ赤な色をした原鉱石の山があり、その粉砕をする工場の屋根も
赤く染まっている。
ここで私が教えられたのは、年間五万トンのアルミナを
アメリカに輸出しているということである。
日本人が疑いの目で自国の産業を眺めているうちに、
日本製品は海を越えて進出している、その一つの姿である。
さて、日軽金の株価はいまちょうど面白いところにさしかかっている。
三月の配当落ち、権利落ちを前にして、
株価はまだ四百八十円にとどまっているが、従来の慣例から言えば、
月末までにもっと買われるであろう。
しかし、それから先が従来と違った動きになるはずであり、
九月末割当ての大幅無償付倍額増資は十分考えられる線だから、
投信の動きを考えあわせるならば、四,五,六月にかけて
かなり派手な動きをすることになろう。
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桜が満開になり、そして散り始めている中で書き込みしています。
桜の花と菜の花の組み合わせの風景は、とても見ごたえがあります。
お隣の中国でも、江南の春と言われる風景を、江南の地で見たことがあり、
スケールが大きいだけに、菜の花がとても印象的でした。
枕草子の文学の世界ではありませんが、
「春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく 山ぎは、少しあかりて、
紫だちたる雲の細くたなびきたる。」
という節はなかなか趣があり、また風情があって心地よく響きます。
こういった春日和の中で、百花繚乱を呈していく景色を見られるのは
とても心が和みます。
また桜を見るにつけ、いつも脳裏に浮かんでくる歌があります。
「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」
「古今集」に出てくる紀友則の作ですが、
わたしが気に入っている歌でもあります。
桜の花は日本人の心情をよく表す花であろうと思われます。
山桜を見て、平薩摩守忠度は
「さざ浪や 志賀の都は あれにしを 昔ながらの 山ざくらかな」
と時代に流されていく平家の行く末をやるかたなく歌に託しました。
こういった季節の変化を感じさせる4月になりましたが、
また同時に新しく入社する若者を見る季節にもなりました。
まだあどけなさが残っている顔を見るにつけ、
自分もあういう時があったことを感慨深く振り返っている所です。
私も高校を卒業してすぐ今の会社に入社し、幾星霜を重ねてきました。
どうやら自分の身の処し方にも、変化の時が来たようです。
これだけグローバル社会になると、物の見方も変わってきます。
次回は理研光学工業株式会社です。