夢と希望と(虹原太助)

戸田ゼミコラムのアーカイブです。このコラムはすでに連載を終了されています。

2007年03月

オートメーション計器 ~山武ハネウエル計器株式会社~
「4.山武ハネウエルの将来
   目先の株価もさることながら、問題は、
   しかし、山武の将来をどう見るか、ということであろう。
   私が蒲田工場の見学に行ったのは今年の七月で、
   第三工場は建物がほとんど完成したところであった。
   蒲田工場は新築のモダンな建物で、
   設備も整っているが、
   工場が割合に小さいのに驚いた。
   そして、この小さな工場で半期に二十億円からの計器が
   作り出されていると聞いて、いっそう驚いた。

   それにしても、他社の使うオートメ計器を、
   いちいち手で組みたてている風景は、
   さしづめ「紺屋の白袴」というところであろうか。

   山武の自動調整装置は従来ほとんど空気圧式で、
   火花の散ることを嫌う石油工業に多く採用された。
   千代田化工建設が請け負っている石油プラントのオートメ計器に、
   山武製品が使われている。
   しかし、横河が独自の技術で電子管方式を完成し、
   その方面の需要が多いので、
   山武でもハネウエル社の技術を使って
   近く新製品を売り出すと言っている。

   オートメ計器の先進国の技術をほとんど全面的に使える点は
   山武の強みであるが、万一、
   ハネウエル社の技術にオンブするような恰好になれば、
   逆にそれが山武の弱点にならないともかぎらない。
   またハネウエル社の技術援助料八%は
   かなり高率のものであり、
   すでに資本の半分をハネウエル社が握っているのだから、
   日本側経営者としては今後その引き下げに努力を払うべきだろう。

5.花形成長株のブーム
   通産省の電子工業五ヵ年計画改定案によれば、
   テレビ、ラジオの生産は一応頭打ちで、
   今後五年間における電子産業の担い手は、
   企業の近代化合理化と密接な関連を持つ
   電子計算機、工業計器、通信機器などの
   産業用電子機器である。

   すなわち、電子計算機の四.ニ一倍についで
   工業計器は三十九年までにニ.六一倍、
   総生産額も昭和三十四年の百三億円に対して
   二百七十億円にのびる計画になっている。
   テレビが逆に七一%に減少し、
   輸出の花形であるトランジスターが
   精精一.七八倍の延びにすぎないのと比較すれば、
   今後、横河、北辰、山武の計器三社が次の花形産業として
   ブームを満喫するだろうことは十分予想される。

   なかでも山武は超小資本でもあり、
   本年につづいて、来年、再来年と再投資をして行く企業素質を持っているので、
   今後もその名のごとくハネル株として投資家たちの注目を浴びると思われた。」

成長時代の幕開けという黎明期は、
高度な技術は日本のどこの企業も最初は、海外よりの技術導入で始まるようですが、
対価としてロイヤルティーを払っています。
一見するとアキレス腱のようですが、
日本の企業は創意工夫して、逆に追い越す企業も出て来ました。
例えば、原子力発電の設備で、東芝はアメリカのウエスチィングハウスより
当初は技術導入していました。
ところが新聞でも報道されていたように、今や
日本の企業が優位に立っています。
日本のお家芸である物作りで、技術の優位性を失なわない限り、
まだまだ世界で活躍出来ると思っています。

オートメーション計器 ~山武ハネウエル計器株式会社~
「3.急テンポの業績
   さて山武ハネウエルの会長山口武彦氏は、九十一歳の老人で
   現在が第一戦を退いているが、明治三十九年に山武商会を創立して
   欧米の工作機械類や酸素焔接機の輸入商をはじめ、
   その後、日本酸素を創立したり、日本精工を創立したり、
   また昭和十年代には計器の国産化に着手したり、
   といった具合で、いつも時代の先端を行くような事業に手を染めている。
   先覚者というべきであるが、時代がまだそこまで来ていないうちに、
   いつも一歩さきの事業を手がける癖があるとみえて
   いささか「早すぎた時計」という感じがしないでもない。

   現社長山口利彦氏は二代目。
   アメリカ仕込みの紳士。
   専務・村井治之助氏はもと安川銀行の出身。
   昭和三十一年に山武計器から山武ハネウエル計器に改称してからは、
   いわゆる外資提携会社になって、
   どちらかと言えばモダン経営になったわけであるが、
   社風は争えないとでもいうのか、
   時代の先端を行こうという気持ちが強く、
   手がける事業も、やはり、時代の需要に応ずるというよりは、
   需要がそのあとからついてくるという形のようである。
   たとえば、計器三社の本三月期の売上や利益を比較すると、
   次ぎのとおりになる。

                        売上高  利益 同率% 配当
                       (百万円)
   横河電機        2,066    466   85   15
   北辰電機        1,729    221   42   15
   山武ハネウエル    1,728    108   54   15

   三社のうち、山武の売上げはほとんど北辰と同額なのに、
   計上利益は半分以下の一億八百万にすぎない。
   北辰の資本金十億円に対して、
   当社は四億円の過小資本であるから、
   対資本利益率は高く、さしあたり配当金に回るようなことは全くないが、
   それでも、三社を比較すると、儲けの少ないのがいささか気になる。
   その点を村井専務に問いただすと、
   「どうもマイクロスイッチの設備に金をかけすぎましてね
   量産体制をとったのですが、うちのマイクロスイッチは性能がよすぎて、
   せっかくこれを使ってもらっても、歯がゆい思いをするのです。
   でもマイクロスイッチの需要もおいおいふえてきているし、
   工業計器や制御機器などの売上も順調ですから、
   九月期から大分よくなるはずですよ」
   という返事であった。
   「早すぎた時計」の社風が「早すぎたマイクロスイッチ」という形で
   現われたせいよいのようである。

   現在、同社で製作されている品目は、工業用計器が七十五%を占め、
   調整弁、自動制御機器、マイクロスイッチが残りの二十五%で、
   いずれも生産設備に使用されるものばかりであるが、
   最近、ルーム・サーモスタットという、ビルやホテルや劇場の空気の温度を
   自動制御する小型の装置を販売して、
   この売上が急速にのびている。
   冷暖房のほどこしてある部屋の温度を調整するのに、
   いちいち機械を止めに行ったりしないでも、
   この装置を動かすことによって一挙に保つことができるから、
   これからは高級ホテルの部屋でお目にかかることになろう。
   なお、このほか、同社はアサヒ・ペンタックスの輸出をやっており、
   ハネウエル社製品の輸入販売をやっているので、
   この装置を動かすことによって一挙に保つことができるから、
   この売上が総売上に二十五%寄与している。
   最近数期の業績の推移をあげると、次ぎのごとくなる。

                        売上高  利益  同率%  配当
                       (百万円)
      33・9           947     21     54     15
      34・3         1,014    54     54     15
      34・9         1,109    57     57     15
      35・3         1,718   108    54     15

   九月期の売上げは二十億五百万程度は計上する見込み、
   さらに来3月期は売上二十六億円と、
   約三十%も向上する見込みになっている。

   こうした業績の急テンポの伸長は岩戸景気と呼ばれる
   空前の好景気に支えられて、
   鉄鋼、化学、石油などの主要産業が設備投資に
   力を入れはじめたからにほかならない。
   この需要の増大に応ずるために、同社では、
   蒲田工場の敷地内に第三工場を八月に完成、
   調整弁の増産を開始、さらに藤沢に新工場を建てて
   マイクロスイッチの製造設備を移すべく、工事に着手した。
   この資金を調達するために近く四分の三増資に踏みきる模様である。

   この増資接近をはやして株価は五百五円をつけ、
   四百五十円と押して現在四百七、八十円の水準にあるが、
   品薄株であることと、最近の人気株の権利落ち後の値段や
   権利落ちした横河電機との比較観から、
   権利落ちの三百四、五十円は堅いとみなければならないゆえ、
   逆算五百五、六十円はつくだろう。
   さらに来年下半期には再増資が予想されるから、
   再び四百円台乗せするのは
   そう遠い将来のことではないと思われる。」

この会社は岩戸景気という経済成長の波に乗った企業でもあったのですね。
日本の主要産業の各社が、設備投資に走出した時に、
タイミングよく、売れ筋商品を出したことと、
将来性を見込んで新工場を建設し、
量を確保する手を打ったことなどが、結果的にうまくいったと思っています。
それと資金の需要が旺盛ですから、増資に合わせ、
株価も追随するといった成長時代の一つのパターンが形成されていたように
感じました。

会社拝見 ① その2
オートメーション計器 ~山武ハネウエル計器株式会社~

「2.オートメーション三勇士
   山武ハネウエルと聞いても、
   なんだろうと思う人があるかも知れない。
   現に北杜夫、池波正太郎らの芥川賞直木賞受賞式の夜であったか、
   池島信平さんに会ったら、
   「邱さん、株はどうだい?」と聞かれたから、
   「ニ、三日前、山武ハネウエルという会社の工場を見に行ってきましたよ」
   と答えたら、耳なれない名前なので、
   キョトンとしていられた。
   ムリもない話で、私自身もすこし前までは、山武のヤの字も知らなかった。
   ところが株に注目するようになると、
   逆にちょっと珍しい会社名なので、たちまち覚えてしまった。

   山武ハネウエルとは正式には
   ーーーー山武計器という日本の計器会社が、
   アメリカの有力計器会社ミネアポリス・ハネウエル・レギュレーター会社
   (Minea-polis Honeywell Regulator)と技術援助契約を結び、
   ハネウェルが資本の五十%を出資して出来あがった
   オートメーション計器の会社である。

   世はまさにオートメーション時代で、近代化された工場へ行って見ると、
   むかしのような人海工場は次第に少なくなって、
   たいていは、管理室というところに数人の工員がいて、
   自動制御機器をジッとにらんでいるだけである。

   「こんなに人を使わなくなっては、
   労働者をやめて資本家になるよりほかないね」
   と大笑いしたことがあるが、
   機械の働きは人間よりも正確、かつ経済的で、
   しかも人間のように赤旗を振ったりしないから、
   新しく出来る工場はつぎつぎとオートメ化され、
   オートメ計器を製造する会社は今後ますます発展することになる。
   たとえば、「経済白書」を見ると、
   計器生産に占めるオートメ機器の比率は次ぎのごとく
   年を追って急増している。

     A 自動   B 指示  Aの全体の
          調整計      記録計    占める%
          (百万円) (百万円)
   昭
       29    714       1,940        26.8
       30    794       2,091        27.6
       31  1,693       3,792        30.8
       32  4,976       4,180        54.4
       33  3,954       3,517        52.7

   こうしたオートメーション計器の生産を専業とする会社に、
   横河電機、北辰電機および山武ハネウエルの三社で、
   この三社をあわせて、俗に計器三社と呼んでいる。
   ほかに富士電機や島津製作所もこの方向に進出しはじめているが、
   しかし、実際には、私が選ぶ銘柄は、他の会社の食いこみによって
   三社の地位が動揺するというほどではもとよりない。

   昨年の暮であったか、私はコンサルタント・エンジニアとして著名な
   吉村昌光氏と一夕食事をともにしたことがあった。
   そのとき、電機業界の話が出て、
   テレビはもうやがて頭打ちだが、オートメ計器は
   前途洋洋だろうという話になった。
   「三社はいいですよ」
   「山武はどうですか?」
   「山武もいいです」
   と吉村さんは即座に答えた。

   その時、山武ハネウエルの株価は新株落ちのあと間もなくして、
   たしか二百四、五十円程度であったが、
   以降、注意して見ていると、
   一月の二百二十一円を底として、
   二月にはたちまち四百円台にはね上がり、
   以来三百円台から四百八十円のあいだを上下している。
   値をとばすときの足の速さは驚くべきほどで、
   縁起かつぎの兜町では、名前がハネルだから、
   よくハネルと言っているのをあとで知った。
   日本触媒とか日本碍子とか、むつかしい名前の会社は、
   名前を覚えてもらうまでがたいへんだが、
   いったん覚えこんでもらえればわすれられることがないから、
   特徴のある名前もそう捨てたものではない、
   ということになる。」

私は会社や工場を見るのが好きなほうです。
現場や現物を見たら、会社のレベルがある程度わかると思っています。
あとは経営者が将来に対し何を考え、どんな布石をするかで
その企業の未来が見えてくるという考えをしています。
むろん時流に乗ることが前提ですが。

2月に戸田先生のベトナムセミナーに参加し、
富士通の工場を見せてもらいました。
日本人の責任者が会社の説明と工場を案内してくれました。
日本からわざわざ来たということもあったのでしょうが、
歓迎してくれました。
そこで働くベトナムの人は、目が眩しいほどに若く、
この国の成長を約束しているがごとく、輝いていました。
実際の加工は、工作機械がずらりと並んで、自動化が進んでいましたが、
最終工程の検査は女性がチェックしていました。
オートメーション計器は異分野でも大なり小なり使われ、
付加価値の高い商品であることは論を待たないであろうと
思っています。

今回から、今から46年程前に、邱先生が「週刊公論」に書かれた
「会社拝見」の紹介と感想を書いてみます。
当時の「一億総投資家時代」にふさわしい時代絵巻を
垣間見ることが出来るのではないかと思っています。
以前に先生が大阪に講演に来られた時、
「ガリ版の状態で情報取りする人があった」と話されていました。
「会社拝見」で会社の名前が出たら、ストップ高になったという
玉手箱だったようです。
読者の皆様方に紹介しながら、私自身も目のつけ所や考え方を学んでいきます。
では始めます。

会社拝見 ①
オートメーション計器 ~山武ハネウエル計器株式会社~
「1.投資人口七百万人の盲点
   最近金は電車のなかでも喫茶店でコーヒーを飲みながらも、
   株がよく話題にのぼるようになった。
   「孫子の代まで、株にだけは手をだすな!」
   と遺言をしてあの世へ行く親の多かった時代にくらべると、
   なんという変わりかたであろう。

   証券会社の調査によると、全国における投資人口は
   およそ七百万にものぼるそうである。
   これはもちろん、親の持株が子供の名義になっていたり、
   一口五千円のユニット型投資信託をたった一口持っているだけの
   零細資本家を含めての話しであろうが、
   それにしても、日本の総人口から見ると、
   十三人に一人の割合だから相当なものである。
   大衆資本主義時代という掛け声も、あながち誇張ではなくなったし、
   おそらく今後のこの傾向はますます大きくなって行くであろう。

   ではこの七百万人の投資家のうち、はたして何人が
   事業会社の内容をよく知って彼らの大事な金を投じているであろうか。
   私の見ているかぎりでは、
   自分らの関係会社の株を買っている少数の人々をのぞけば、
   大部分の人々は証券会社のセールスマンの手引きで株を買っている。
   なかには自分でよく研究して作戦を立てている者もあるが、
   反対に、自分が株を買った会社がいったい何を作っているかさえ知らない
   のんき者もある。

   かって大宅壮一さんが「日本の企業」という連載をやったことがあった。
   日本の一流会社をマナ板にのせた、なかなか面白い企画であった。
   投資家ならずとも、自国の企業がどういう形で出来ているか
   関心を持っていることだから、多くの愛読者を見出したに違いない。

   けれども、私に言わせると、人々は、たとえば、
   八幡製鉄の溶鉱炉がいかに大きいかということにも
   むろん興味を持っているけれども、もっと興味を持っているのは、
   「あのデッカイ溶鉱炉に私のなけなしの五万円を投じたら、
   いくらになって返ってくるか?」ということではあるまいか。

   投資家が企業に対して持つ興味は、
   その企業が投資家に報いるかどうかという点にある。
   この観点に立つと、世上、一流会社として通用している会社、
   かならずしも一番投資家に報いる会社とはかぎらない。

   この立場から日本の産業界を眺めると、従来、常識的に位置づけられた
   各企業の序列は全く別の形に塗りかえられてしまう。
   つまり投資家は未来の番付を頭に入れて買うべきであって、
   たとえその企業が前頭十枚目どまりであっても、
   十枚目まであがるまでに三回とか四回とか増資があって、
   しかもそのスピードが早ければ、早いほど大いにむくいられるわけだ。

   そうした素質を持った企業はなにかーーーというのが、
   これから毎週登場する企業である。
   したがって、ここにとりあげられる企業はかならずしも上場会社とはかぎらず、
   店頭売買銘柄である場合も多い。
   成長株という観点に立てば、上場会社よりも店頭会社のなかに
   有力候補が多いのだし、
   さらには特殊性のなかにもっと多いことになる。
   しかし、実際には、私が選ぶ銘柄は、
   買おうと思えば手の届く範囲内にとどめることにする。」

成長株による「金儲け発想の原点」がここにあるようです。
自分自身もそうですが、常識なんていうものは
所詮は過去の遺物だと疑ってみる必要があると思っています。
未来に向かって生きていくのですから
常識という砂上の楼閣に埋もれないようにしたいと
考えています。
時代が変われば、また情勢が変われば
考え方も変える必要があると思ったりします。

プライベートな事で恐縮ですが、
しばらく、大阪と九州を往復せざるをえません。
この書き込みをしばしば中断することもあると思いますが、
ご容赦下さい。

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