「7.トランジスタ・ブームの支柱
産業界のそういう縄張り意識がミツミに幸いしたと言ってよかろう。
ここ数年は空前のトランジスター・ブームで、キャバレーやバーにまで
トランジスター・ガールが流行した。
そのブームのおかけでミツミは国内需要に追われ続けてきたが、
昨年夏のトランジスター対米輸出規制によって、
ようやくブームも落ち着いたので、
パーツの輸出をはじめるようになった。
日本の全メーカーにパーツを供給したように、
今やアメリカのGEやRCA、ドイツのテレフォンケン、
オランダのフィリップスなど全世界の有名なメーカーに
ミツミ製品を供給しはじめている。
完成品の輸出という従来の観念を捨てて、
世界の総合パーツ・メーカーに徹するというのは、
たしかに一つの新しい行き方であって、
ミツミはいち早くそれを実践に移しているわけだ。
こうしたパイオニア的生き方に対しては、
岡焼的な気分も手つだって、疑問視する向きがないではない。
その一つは、事業にはいい時ばかりはないから、
逆境に立ち至った時に、果たしてこの財界のスーベル・バーグは
うまくそれを切り抜けて行けるかどうかということである。
もう一つは、ミツミ電機が現在製造している業種がトランジスタ関係だから、
今後は今までのようなのび方はしまいという見方である。
たしかにトランジスタ・ラジオの伸びは昭和三十九年になっても
三十五年度の一.七~八倍としか予想されていないから、
この見方は単なる杞憂とは言えないのである。
森部さんもこの点は十分認めており、
『これからは今までのような成長の仕方はしないと思います。
したがって、ほかのパーツを手がけるべく、目下、研究中ですが、
その場合には、業界の五〇%はいただきたいと考えています』
五〇%とは、全国生産量の五〇%という意味である。
一〇〇%と欲ばらないのは、競争相手のある方が
刺激になってよろしいからだそうだ。
こうした考えにもとづいて、
ミツミ電機がこの二月から量産に着手するのはマイクロモーターである。
マイクロモーターは現在のところ日本マイクロモーター、
三協精機、東洋時計などによってつくられているが、
この分野へ新しく割りこもうというわけである。
マイクロモーターは、家庭用電気器具はもちろんのこと、
テープレコーダー、電子計算機、はてはカメラなど、
あらゆる分野に無限の需要を持っているものであるから、
これが成功すれば、ミツミ電機にはもう一つ、
月に何億円かの売上げが加わることになろう。
ところで、ミツミ電機の株価は四千九百五十円から最低三千円を付け、
昨今はふたたび四千二百円台に上昇している。
一月末に親株に合併される新株の方は、それが市場に多く流れたせいもあって、
三千八百円台と四百円も下ザヤにある。
前期は五割配をやり、今期は三割配をやって行こうとする会社としては、
必ずしもベラボーな値段とは言えないが、
五百円株としては決して安い値段ではないだろう。
『成長力からいえば、ソニーなみに買われてもよい』
と言う人もあるが、そのためには五十円額面に変更しなければなるまい。
森部さんも、目下それを考慮中ということである。
あれこれ考えあわせると、ここでもう一つ増資という
具体的な材料の欲しいところであるが、
これは年半ばになってからのことであろう。
ただ、企業の若さに惚れる人の眼には、
ミツミ電機が数少ない成長株の中でも
最尖端を行くものとして映るであろうことは間違いない。」
.
.
.
これからの日本企業の生き残り策として、二つの道があると考えられます。
一つはハードウエアであり、もう一つはソフトウエアです。
ハードウエアは日本企業の得意とするもので、従来からの継続を踏襲しつつ、
また温故知新の繰返しという中で、創意工夫していくものです。
ソフトウエアは、世に言うITばかではなく、設計上のノウハウであったり、
デザイン、作物等のノウハウであったりと森羅万象に及ぶものです。
たとえば、日本のお米は外国に比べると美味しいものですが、
その秘訣の解明を探る方法や取組みかたを広めるといったものです。
ただハードウエアとの組み合わせでないと、
ソフトウエア単独では成り立たない所もあり、本当に難しいものです。
最初の製造業というハードウエアですが、製品としての完成品、部品、
また生産財としての工作機械・設備等があり、ミツミ電機はトランジスターで
大きく成長したようですが、世界的に見ると、独壇場ではなかったので、
岐路に立ったようです。
部品メーカーとして、マイクロメーターにも触手を伸ばすことになります。
部品メーカーとして生き残る場合は、どうしても国内のみならず
世界中に輸出して、量を増やし、
量産効果でコストを削減することになります。
ただ弁慶の泣き所として、製品メーカーの生産が落ちてくると、
どうしても、波をもろにかぶることになります。
ビジネスとしてやっている以上、リスクはつきものではありますが。
9/30付けの日本経済新聞を読んでいたら、興味深い記事がありました。
トヨタ自動車系列部品メーカーのデンソーは、
2011年3月期には連結売上高を4兆円の大台に乗せるそうです。
トヨタ向けで培った環境・電子部品を世界の自動車各社に売り込むことで
07年3月期の売上高は3兆6,000億円と過去3年で4割増加。
直近の株式時価総額は3兆8,000億円強と、
米ゼネラル・モーターズ(GM)の2兆4,000億円を上回るそうです。
ここに、部品メーカーの活路があるようです。
系列を超えた合従連衡も視野に入れて、ビジネスを展開していくものです。
同じように9/29付の日経は、炭素繊維についても紹介していました。
重さが鉄の四分の一という炭素繊維では60年代からはじまったが
欧米勢は撤退。
日本は重要特許の大半を押さえ、国内3社が世界シェアの7割を握る。
最大手の東レは21年まで米ボーイングの次世代機向けに
独占供給するそうです。
要するに、海外からの追随を不可能にするだけの技術力を保持することが
大事であり、また粘り強く取り組むことが必要だと思われます。
似て非なるものの追及が重要だということでしょう。
マツダのロータリーエンジンだって、理論はドイツのものですが、
実践は世界でマツダだけが成功したのです。
試行錯誤の連続だったようですが、あきらめないことと、
その執念に、幸運の女神が微笑みを送ったということでしょう。
今の日本企業は、完成品や重要部品の輸出だけでなく、
半導体の設備等の生産財も輸出しており、
今をときめく韓国メーカーのサムソンだって、半導体の設備には、
日本製やドイツ製が使われているかも知れません。
7月に考察団で見に行ったバイオの常茂にも、製品の搬送に
日本製の搬送機が使用されていました。
桧舞台は中国に移りましたが、
このように、縁の下の力持ち的な存在で、日本は世界に、
そして中国の近代化に貢献することが
日本のためになるし、それこそアジアの時代に旋風を起こす先駆けになると
考えます。
勿論、投資家も恩恵を受けるはずです。
次回は日特金属工業株式会社を紹介してみます。