「4.ウロウロして殖える株
第四は、株価自体の動きである。
50円だったり七十円っだったりしたむかしの話をしても仕方のないことで、
ここ数期における日軽金の株価は、いつも四百円から
五百五十円くらいのあいだを往復している。
これは資本充実法にひっかかって、毎期、一割の実株無償交付と
一割の現金配当を続けてきているからである。
したがって、三月と九月が近づくと、いつも五〇四、五十円台にのせ、
一割の株価分をおとす。
期中たまたま暴落にあうと四百円をわることもあるが、
期末が近づくとふたたびもとの高値に戻ってくる。
いつも同じところをウロウロしているが、その間に持株が
複利計算でふえており、たとえば三月に千株持っていた人は、
九月がすぎると千二百十株の株主になっているのだ。
『うちの株主さんはとても報いられていますよ。
定期預金どころの騒ぎではありません』
と、上から下まで、日軽金の社員が口をそろえて言うのも無理はない。
以上の理由から、私は大事をとる投資家には、いつも
『日軽金ならいいじゃないですか?』
と、すすめてきた。
ひとつには昨年の一月、新潟へ行ったが、日軽金新潟工場を見せてもらい、
だいたい、私が考えていたことを確認することができた。
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5.有利な技術導入
私は
『どうして日軽金の株価は高いのですか』
と質問したが、私を案内してくれた幹部の人は、
以前、本社で経理関係を担当していたとかで、即座に、
『第一に新しく投資するには厖大な資金を必要とする
回転の悪い事業であること。
第二に期末ごとに一割の株配をしていること。
第三に邱さんはどう考えるかわからないが、当社は資本の半分を
提携先のカナダのアルミニウム・リミテッドが所有していて、
日本人は白人に弱く、白いのが持っているくらいだから優秀会社だと
考えていること』
と答えた。
白と黄色の問題は、はたしてそのとおりであるかどうか異論もあろうが、
アルミニウム・リミテッドのおかげで、浮動株が少なくなっていること、
また技術上のことで、たとえばアルミ製錬の画期的な新法と言われる
ボーキサイトから直接アルミニウムをとる方法の技術導入などで、
相当恩恵をこうむっていることは事実であろう。
しかし、こんど改めて日本軽金属へ訪ねて行って見る気になったのは、
もう一つ別の新しい角度からであった。
日軽金は本社を新しく建てなおし最中で、目下議事堂の近くに
仮住居をしている。
副社長の安田幾久男氏は、以前、私がロータリー・クラブでお喋りをした時に
顔を合わせたことがあったのを、私がすっかり忘れていて、
挨拶されてかえって恐縮してしまった。
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6.アルミの新製法誕生す
『日軽金が優秀会社であることには異論はありませんし、
お会いするまでもなかったのですが、資本充実法の改正という問題が
起こったものですから』
ご存じのとおり、資本充実法の実施により、各事業会社はこれまで
増資その他の形で対評価積立金を資本に組み入れてきた。
今年、さらに自己資本の是正のために資本充実法が改正されるが、
実のところこの法律にひっかかるのは、業績があまりよくないために
増資の機会に恵まれなかった海運会社や繊維会社が多い。
そのなかにあって、日軽金はあと一回の無償交付で配当制限を
免れるところまできたが、そこへまた追い討ちがかかることになるのである。
なにしろ日軽金は、いまだに五十億二千三百万円の再評価積立金を持っている。
業績から言っても、事業のスケールから言っても、
自己評価を是正する時期にさしかかっているし、そろそろ増資にふみきって、
かなり大幅の無償交付をやらねばなるまい、と見たのである。」
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この日本軽金属株式会社の実株無償交付と現金配当というのは、
投資家にも大変メリットがあるし、好感をもって支持が得られると思われます。
また分かりやすいし、安心感があります。
投資家としては、大事なお金を自分の眼鏡にかなった企業に
投資するわけですから、それなりに配当を期待したいところですね。
海に向うの中国でも、業績の良い企業の決算発表が続いていますが、
中には6割無償をする企業があるかと思いきや、一方で業績が良いのに
無配当であったりして千差万別です。
設備投資が旺盛で、余裕がないのかも知れません。
この設備投資ですが、現在、日本経済新聞に「私の履歴書」で
住生活グループ前会長の潮田さんが執筆されています。
前身は「トーヨーサッシ」であったり「トステム」と言う会社名でしたが、
川下産業にあたるアルミサッシを製造していた成長期の需要の多さについて
言及されていました。
『軽くてさびにくく、加工しやすいアルミサッシは昭和四十年代に入って
急速に普及した。
団地やプレハブ住宅向けなどに需要が急拡大したのである。
一九六二年(昭和三十七年)には五千トンにすぎなかった
アルミサッシの国内生産量は、六九年には約十四万トンと
三十倍近きに増えた。』
7年間で30倍ですからすごい数字です。
もっともアルミサッシだけの事業展開では将来の成長に限界があると
思われたようで、総合化を計るため門扉・フェンスなどを取り扱う
東洋エクステリアを設立されます。
この東洋エクステリアの名前はよく見かけます。
このように事業にしても、原則は変わらないにしても、
時代に応じて流転していくものがあるのですから、
投資にも目配りが必要なようです。
いいことはいつまでも続かないという姿勢が必要かも知れません。
もっともこれを裏返しすると、悪いことは
いつまでも続かないということかも知れませんが。
未来は明るいという気持ちがないと、痺れを切らす所です。
次回も日本金属株式会社です。